A タチツボスミレ 立坪菫
スミレ科タチツボスミレ類
日本全土 環境への適応の幅は広く日当たりのよい草地からスギ林の林下まで少し日が当たれば花を咲かせる。垂直分布も広く海岸から亜高山帯迄。櫛の葉状の深い切れ込みのある托葉が特徴。<54>
A3)花柱上部の突起なし 中心部の白い部分ははっきりしない
A4)距はやや細長く紫色を帯びる
A6)櫛の葉状の深い切れ込みのある托葉
A7)地上茎
B コスミレ 小菫
スミレ科ミヤマスミレ類
北、本、四、九。低地の人里周辺に多い。山地の日陰に生育するものもある。花の色や形態に変化が多く、観察者を困らせるスミレの一つ。花の色は淡紫色のものが多いが、地域によって紫紅色、白色もある。<54>
B3 距はやや長いがぼってり。ナガハノスミレサイシンはこんなに長くない
B5 花柱上部は円盤形 ナガハノスミレサイシンやヒメミヤマスミレの花柱上部は突起あり
B6 ナガハノスミレサイシンに似るが、同種は花期には葉は開いていない場合が多い。
B7 地上茎はない。葉の鋸歯が粗く目立つのは、ヒメミヤマスミレに似るが、同種の葉裏は紫。
B8) 托葉
B2) 春になると野草の花が咲き出し、ついつい森を歩き周ってしまう。そんなには咲いていないのだけど。先日、タチツボスミレの群生をみつけ、森でもこんなに咲くものなのか、と驚きを新たにしたことを紹介したが、これだけ咲くのだから、タチツボスミレばかりではあるまいと探してみたら、その周辺に、明らかにタチツボスミレではないスミレを見つけた。路地でよくみかける狭義のスミレでもない。これは、もしやナガハノスミレサイシンか(太平洋側のスミレサイシンはナガハノしかない)、はたまたヒメミヤマスミレか、と期待に胸を膨らます。
B5) 手元のスミレ図鑑には150種のスミレが掲載されている。そしてスミレほど同定が難しいものはないとも言われる。それでも太平洋側は種類は少ないので、そう悩みはしない。下越の低山に行ったときはあまりにいろんなスミレが咲いていて同定を投げ出している。今再び同定に挑んでみた。花の色と葉の形からナガハノスミレサイシンとヒメミヤマスミレに絞り込む。しかし問題は、この花柱の先端だった。平べったい円盤形。この2種ではない。いろいろ図鑑を調べて、これはコスミレ。人里に多いらしくそうめずらしくはないようだ。そして図鑑には、花の色や形態に変化が多く、観察者を困らせるスミレの一つともあった。だからわからなかったのか。スミレ探し全国探訪にいってみたいと、この季節になるといつも思うがなかなか実現しない。(2022/3/22 B)
C エイザンスミレ 叡山菫 <丹沢二ノ塔>
ミヤマスミレ類
本、四、九。葉が裂けたスミレの中で最もよく見られる。どちらかというと太平洋側の低山に多い。葉は深く3裂することが基本で、ヒゴスミレやナンザンスミレのように基部から5裂することはない。淡紅紫色がふつうだが、紅色の強いもの、白に近いものと変異がある。花弁の縁は波打っているものが多い。<54>
C1 葉が分裂しているのでエイザンスミレとしたが、よく観察していたわけではない。
C2 同じスミレを写したのか定かではない。手前の葉は写っている花と違うスミレか。この葉はナガハノスミレサイシンに見える。
C1) 昨日、コスミレを紹介したら、読友さんからエイザンスミレを知っているかとコメントをいただきました。比叡山に自生していたからエイザンスミレと名付けられたことを教わりました。手持ちのすみれ図鑑には書いていなかったが、「牧野日本植物図鑑」には確かに、「比叡山に生えるスミレの意」とありました。最初に比叡山で発見されたのでしょう。このエイザンスミレは山で比較的よく見られ、かつ葉が分裂しているという特徴があって見分けやすく、過去の写真ストックを探してみたら出てきたので紹介します。場所は丹沢の二ノ塔の山頂付近です。
C3) エイザンスミレの写真を見返して、この日、丹沢・二ノ塔には、植林ボランティアに行ったんだったと思い出しました。2018年4月21日でした。丹沢は、地質的に崩れやすくて崩壊地が多く、そこに丹沢自生の広葉樹を植林する活動が行われているのです。ここ二ノ塔は、丹沢山塊の最も手前(東側)にあり、標高は1144mで比較的簡単に登れます(といっても1時間以上は登る)。子ども連れのハイキングついでに参加されていた方が多かったです。苗樹とスコップを運んでいかなければならないけど。先ほどのエイザンスミレは、その時に携帯カメラで写したものでしっかりとは観察していないので、もしかしたら違うスミレかもしれません。分裂葉のスミレは他にもあるので。エイザンスミレのおかげで思い出すことが出来、教示いただいた読友さんには感謝です。■エイザンスミレ詳しくは(「スミレたち」C)→https://shoukame2.myportfolio.com/y06
C5) せっかくだから。その時の二ノ塔山頂からの眺め。富士山に向かって右側に連なっているのが丹沢の表尾根(二ノ塔~三ノ塔~塔の岳)になります。この尾根歩きは最高なのですが、この日は植林ボランティアだったので、そのまま引き返したのでした。それにしても丹沢にも、とんと行ってないなあ。(2022/3/23)
C1)-C5) 2018/4/21 丹沢・二ノ塔
D タカネスミレ 高嶺菫<秋田駒ケ岳>
ギバナノコマノツメ類
東北地方の高山砂礫地(岩手山、秋田駒ケ岳、薬師岳) 日本のスミレの中で最も高所に分布する。花柱の上部に突起毛があるのは、キバナノコマノツメ類で本種のみ。亜種に、エゾタカネスミレ、クモマスミレ、ヤツガタケスミレがあり。キバノコマノツメを含めて、花柱の上部に突起毛と葉の毛・光沢が違う。<54>
D5) スミレついでに、黄色いスミレを紹介します。昔の写真です(2018年7月1日)。これはタカネスミレです。黄色いスミレにもいろいろあるのですが、一発でタカネスミレとわかります。なぜなら、ここは秋田駒ケ岳だからです。標高1470m付近です。東北の山でこの標高というのは、植生的には日本アルプスだと2500mくらいに相当します。紛れもない高山植物。どんな場所かというと。。。
D1) タカネスミレは、日本のスミレの中で最も高地に分布し、東北の山の砂礫地にしか分布しないといいます。つまり、他の黄色いスミレは、ここには分布しないということです。この日は、花期より遅い時期なので終わりかけですが、最盛期には一面がタカネスミレの大群落に覆われるといい、それだけを目当てに多くの人が訪れるとか。秋田駒ケ岳は、他の高山植物も(この辺り以外に)沢山咲いていて、花の名山の名をほしいままにしています。
D6) ついでに、タカネスミレと、高山植物の女王といわれるコマクサのコンビです。コマクサは少し時期が早くて咲き始めです。秋田駒ケ岳のこの辺りは、タカネスミレの大群落の開花が終わると、コマクサの大群落の開花が始まると言います。そして他の植物は全く生えていないのです。(2022/3/24)
D1)-D6) 2018/7/1 秋田駒ケ岳
E ナガハシスミレ 長嘴菫 テングスミレ <宝珠山>
タチツボスミレ類
タチツボスミレの仲間はどれもよく似ていて識別が難しいが、こんなに長い距をもつスミレは他にないのですぐ覚えられる。北海道南部から鳥取県の日本海側に主に分布する。太平洋岸にもところどころに飛んで分布する。<54>
E2) 調子に乗ってスミレもうひとつ。スミレの識別は難しいのですが、これは一目見ただけでわかります。タチツボスミレの仲間ですが、花の後ろに突き出ている距が長いのです。だからナガハシスミレといいます。別名、天狗スミレ。太平洋岸ではあまりみられませんが、日本海側の低山には普通に生えていました。タチツボスミレより、多い感じでした。日本海側ではごく普通のスミレなんでしょう。ここは、五頭山の南端の宝珠山の麓です。標高は245m。2018年4月14日のこと。
E5) ナガハシスミレのアップ。後ろに突き出た距以外は、タチツボスミレと一見見分けがつきませんね。新潟の低山にはよっく行って、さまざまなスミレが咲いていて楽しめたのですが、名前がわかったのは、このナガハシスミレだけ。スミレだけでなくたくさんの花が咲いていて驚いたものです。雪解けを待ち構えたように一斉に花を咲かせるのでしょう。腰を落ち着けてじっくり野草の花めぐりをしたいものです。(2022/3/25)
E1)-E5) 2018/4/14 宝珠山
F スミレ 菫
ミヤマスミレ類
耕作地の周辺や高原の草地、海岸などに生育。アスファルトの隙間などどんなところにも花を咲かせる。日当たりの良いところが条件。
側弁の基部は有毛。類似のノジスミレは無毛
葉はヘラ型で翼がはっきりしている。ヒメスミレは三角状で翼なし、ノジスミレは縁が破れた感じで翼なし<54>
F2 葉の柄に翼がある
F3 側弁の基部は有毛
F1) 先日、スミレを何種類か紹介したので、きょうは森ではなくて国道1号線のコンクリートの隙間に咲いていたスミレを紹介します。これは、スミレです。スミレ科スミレ属スミレ。道端でよく見かけますが、山地の草原にも勿論咲いています。山ではタチツボスミレの方が圧倒的に多いですが。これとそっくりなのに、ヒメスミレとノジスミレがあって、こちらは山では咲かず、人家の周りに限られるとか。念ののため同定ポイントを確認してみたら、これはスミレでした。これらのスミレは日当たりが条件らしいので、コンクリートの隙間は絶好の場所なのでしょう。
F3) スミレの拡大。花の奥に毛が生えているのが、スミレの同定ポイントの一つです。(2022/4/12)
F1)-F4) 2022/4/8
G ギバナノコマノツメ 黄花の駒の爪 <三ツ峠>
ギバナノコマノツメ類
北海道から屋久島まで一定の標高及び緯度以上(本州中部では標高1700m以上)ではふつうに見られる。やや湿り気のある草地や沢沿いの林縁に多い。砂礫地に進出しタカネスミレと紛らわしい場合もある。
G2 上弁と側弁が上に反り返る
G4 葉の形が馬の蹄に似ているかことからその名がある。先が凹むことが多い。タカネスミレ(D)に比べると光沢がなくやわらかそう
G1) 三ツ峠は花の多い山としても有名です。八十種もの植物が貴重種として記録されていると言います。目当ては花だったのです。ただし高山のお花畑のように一面の大群生(環境が厳しいので一種が占有する)というわけではなく、山地の様々な野草が咲く、というタイプのようです。ですから見つけるのは大変です。初めての山でしたので様子もわからずそうはうろうろできず、しっかりと撮影はできなかったのですが、それでも何種類かは写してきました。同定できていない花も多いのですが。■まずは、これ。黄色いスミレです。黄色いスミレは特定の高山が基本。まさか咲いているとは思いませんでした。拡大してみましょう。
G2) この黄色いスミレは、キバナノコマツメです。唯一、全国に分布する黄色いスミレです。といっても一定の標高および緯度以上に限られ、本州中部では標高1700m以上のみだそうです。山頂に咲いていました。
G3) スミレは横から、ということで写してみましたが、不鮮明。マクロレンズにすべきでした。一応持って行きはしたのですが、その余裕がなかったのが正直なところ。花の撮影に専念するために、この山は再チャレンジしたいと思います。(2022/6/11)
G1)-G4) 2022/6/4 三ツ峠山 →山旅日記
H ニョイスミレ 如意菫
ニョイスミレ類
最も花期の遅いもののひとつ。田の畔から沢沿いの林の中まで、すこし湿り気があればどこにでも生える。葉は心形で先が尖り、基部は深い。ミヤマツボスミレの葉は円形で先が尖らない。
H1)-H3) 切込湖(標高1600m)
H2) 距は短くぼってり
H4)-H7) 小田代原(標高1500m)
H1) 刈込湖の森の野草の花は、次から次へと見知らぬ花が出てきて、そのたびに立ち止まってしまうので、なかなか先に進めません。この森の野草はどうも一定の棲み分けが出来ているようでした。決して標高だけで棲み分けているようではなさそうでしたが、標高の低い順(出てきた順)に紹介しましょう。まず、標高の低い(1400m~1600m)あたりはスミレが多かったです。ほとんどがタチツボスミレみたいだったのですが、細部を調べるとどうも違うようでした。だいたい6月中旬ですからタチツボスミレにしては時期が遅すぎです。しかしご承知のようにこの仲間は同定が非常に難しい。未だ判明できません。代わりにこちらのスミレを紹介します。ニョイスミレです。一株だけ咲いていました。
H5)先ほどの刈込湖の森のニョイスミレは、形が変形しているし、そもそも下を向いているので、足場が悪い山では写しずらく諦めたのですが、翌日の小田代原(草原です)でニョイスミレを見つけたのでそのその写真です。これでも地面に這い蹲って写しています。調べてみると、ニョイスミレは(というかスミレは一般に)草地でも山の中でもどこでもみられるので、森の中にも草原にも咲いていたんですね(両方に咲いていたのはこれだけでした)。そして、ニョイスミレはスミレの中で最も花期が遅いそうです。ということは、刈込湖の森のタチツボスミレに似たスミレは何だったのだろう。謎が深まります。(2022/7/3)
H1)-H3) 2022/6/17 日光・刈込湖 標高1600m→山旅日記
H4)-H7) 2022/6/18 日光・小田代原